株式譲渡や第三者割当増資を検討する際に何%の株式を外部に保有させるとどういった影響があるのか、議決権比率ごとの権利について紹介していきます。
議決権比率とは?
議決権比率とは株式会社における株主総会での議決権の割合です。株主総会では議決権数が投票数となり多数決での意思決定が行われます。例えば、Aさんを取締役に選任したいといった議案に対して議決権数で賛否を標じて決議を行います。
議決権比率と出資比率、持株比率の違い
株式の議決権に制限を設けていない場合、議決権比率と出資比率、持株比率は一致します。上図の例では60%保有する株主と40%保有する株主がいて、議決権も同率です。
しかし議決権制限株式を発行している場合は議決権比率と出資比率、持株比率は一致しません。上図の例では議決権制限のない普通株式を比較すると同数なので50%ずつの議決権。
出資比率とは、会社設立時や資金調達時の出資割合のことで基本的に各出資ラウンドごとに持株比率と一致します。
議決権制限株式は会社の経営権と株式としての財産を分離したい場合に活用します。最もメジャーな用途としては相続になります。
例えば社長が子に会社を相続したい場合に活用できます。無議決権株式を99%子に発行し、親である社長が1%議決権のある株式を所有します。こうすることで会社の意思決定は100%親である社長が行えますし、将来的に相続する場合も相続すべき財産は1%分の株式を譲渡するのみなので相続税を低く抑えることができます。また、配当も子に対して多く行うことができますので生前贈与的効果もあります。
また、経営関与はしてほしくないが出資してほしいケースでも議決権制限株式を活用できます。
議決権比率ごとの権利
1%以上の議決権
株主提案権を行使することができます(会社法303条2項)。近年注目されている「もの言う株主」が行使していることで有名です。例えば自分を取締役にするよう提案したりするケースです。
最近ですとFuture Venture Capitalという会社で個人投資家が提案した議案で取締役全員が交代したケースもあります。(Nikkeiより)
第303条
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1.株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2.前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
3%以上の議決権
帳簿閲覧請求権と株主総会の招集請求権を有します。
帳簿閲覧請求権は会社の重要機密である会計帳簿を見ることができる権利です。
第433条
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総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
株主総会の招集請求権は株主総会を開催するよう要求する権利です。株主提案権では開催予定の株主総会に議案の提案ができるのに対し、総会自体の開催を要求できる点で異なります。
第297条
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総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
10%超の議決権
会社解散請求権を有します。実務上滅多に行使されるケースは無いと想定されますが会社の解散を請求することができます。
第833条
次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。
一 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
二 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。
3/1超の議決権
株主総会特別決議における拒否権を持ちます。株主総会の特別決議を決議するには議決権の2/3以上が必要になります。そのため、1/3超の議決権を保有すると特別決議を拒否できることになります。詳細は2/3以上の議決権の項参照。
50%超の議決権
株主総会普通決議を決議することができます。(会社法309条1項)
経営陣の選任権を有することになるので、実質的に会社の支配を獲得した状態です。
第309条1項
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株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
取締役会非設置会社
取締役会を設置していない会社では株主総会で何でも決めることができます。(会社法295条)
第295条1項
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株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
取締役会設置会社
取締役会設置会社では権限を取締役会に委譲し、総会決議事項は限定されています。主な総会決議事項は以下です。
- 取締役の選任
- 監査役の選任
- 計算書類の承認
- 配当の決議
2/3以上の議決権
株主総会特別決議を決議することができます。特別決議が必要な主な事項は以下です。
- 譲渡制限株式の買取り
- 特定の株主からの自己株の買取り
- 募集株式の募集事項の決定
- 新株予約権付社債の発行
- 事業譲渡の承認
- 定款の変更
- 解散
- 吸収合併
309条
2.前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
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一 第140条第2項及び第5項の株主総会
二 第156条第1項の株主総会(第160条第1項の特定の株主を定める場合に限る。)
三 第171条第1項及び第175条第1項の株主総会
四 第180条第2項の株主総会
五 第199条第2項、第200条第1項、第202条第3項第四号、第204条第2項及び第205条第2項の株主総会
六 第238条第2項、第239条第1項、第241条第3項第四号、第243条第2項及び第244条第3項の株主総会
七 第339条第1項の株主総会(第342条第3項から第5項までの規定により選任された取締役(監査等委員である取締役を除く。)を解任する場合又は監査等委員である取締役若しくは監査役を解任する場合に限る。)
八 第425条第1項の株主総会
九 第447条第1項の株主総会(次のいずれにも該当する場合を除く。)
イ 定時株主総会において第447条第1項各号に掲げる事項を定めること。
ロ 第447条第1項第一号の額がイの定時株主総会の日(第439条前段に規定する場合にあっては、第436条第3項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
十 第454条第4項の株主総会(配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して同項第一号に規定する金銭分配請求権を与えないこととする場合に限る。)
十一 第6章から第8章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
十二 第5編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会