会社の売却を検討しているが、実際に行うとしたらどれくらいの期間がかかるのか?また、その準備にはどれくらいの期間がかかるのか?何に時間がかかるのか?
短くするポイントや長引くポイントを紹介していきます。
会社売却期間の相場:半年〜1年
まず結論から申し上げると一般的には半年から1年ほど売却検討から実行までの期間になります。
実際にはもっと短期間で話がまとまるケースもあれば、何年もかかるディールもあります。
会社売却の流れ
会社売却の大まかな流れは以下の通りです。
初期相談
会社の売却を検討される場合、顧問税理士やメインバンクに初期的な相談をされる経営者の方が多いです。彼らが直接M&AのFAや仲介の役割を担うケースもありますが、基本的には専業のFAやM&A仲介業者を紹介されるケースが多いです。
ノンネーム情報
M&A仲介会社に相談し、売却を依頼すると会社の基礎情報をまとめた匿名の情報(ノンネームシートと言います)をとりまとめ、これを買い手候補に提示することで興味関心の有無を確認します。
ノンネームシートへの記載事項の例
項目 | 例 |
業種/業界 | システム開発、小売業、建設業、広告代理業など |
地域 | 会社が特定されない範囲で都道府県や関東関西などのもっと広域のエリアなど |
売上高 | 8億円 |
営業利益 | 1-2億円 |
従業員数 | 30名程度 |
譲渡理由 | 後継者不在のため |
譲渡スキーム | 株式譲渡 |
譲渡希望時期 | 1年以内 |
デューデリジェンス(DD)
ノンネームシートで興味関心を持った買い手がさらに詳細検討を行うのがデューデリジェンスです。秘密保持契約を締結して、会社の各種情報を開示して買い手もしくは買い手が委託した公認会計士などの専門家が売り手企業の中身を詳細に検討します。
売却交渉
デューデリジェンスの結果、買い手がM&Aを実行したいとなると売買の条件交渉およびスキームや契約書の調整を行うことになります。
基本的には売り手が売却目線となる価格を初期的に提示しているので、最終交渉ではデューデリジェンスの結果発見されたネガティブ情報が値下げ交渉の材料となる程度です。
M&A実行
交渉が成立したら契約締結と金銭払込が行われ株式が譲渡されます。
交渉成立からディール実行までは買い手の統合作業(PMI)に向けた準備もあることから売り手だけで決定されるものではなく両者協議の上決定されます。
会社売却に要する期間
では具体的にM&Aの各フェーズごとの所要期間をみていきましょう
アクション | 所要期間 |
FAやM&A仲介への相談 | キックオフ |
事前準備、ノンネームシート作成 | 1ヶ月 |
買い手候補企業の募集 | 1ヶ月 |
買い手候補企業からの打診、IM提示 | 0.5ヶ月 |
秘密保持、トップ面談、質疑応答 | 0.5ヶ月 |
デューデリジェンス | 1-2ヶ月 |
最終交渉、買い手意思決定 | 1ヶ月 |
上記は全てのフェーズが非常の順調に進んだ場合を想定しており、買い手・売り手双方の事情によりM&Aの期間は早くなったり遅くなったりします。
会社売却までの期間が早くなるケース
- 買い手が明確な買収ターゲット像を持っており、売り手企業がそれにぴたりと合っている
- 買い手がオーナー企業など意思決定が早い
- 売り手企業の事前準備が良く、質疑応答への回答が明確、デューデリへの対応が早い
- 売り手の当初から提示する売却価額の水準が適切である
ターゲット像の一致
買い手企業は仲介会社に「こんな会社があったら是非買いたいので是非紹介してください」と普段から打診しており、売り手企業がまさに希望にフィットしている場合は当然ながらM&Aの期間が早くなります。
また、売り手企業も「こんな会社にだったら売って良い」という会社像があると思うので、これが双方一致する相思相愛のM&Aであれば交渉などのフェーズが簡略化されるため早期にM&Aの合意に至ります。
買い手の意思決定が早い
買い手企業は上場企業かファンド、資金力のある非上場企業になることが一般的ですが、M&Aにおける意思決定プロセスは買収企業により異なり、その複雑性により意思決定速度は異なります。
意思決定の早さは以下の順になります。
「オーナー企業のオーナーが独断で決定できる」>ファンドや買収に慣れている企業>「買収に不慣れな企業」
オーナーが独断で意思決定できる会社の場合はトップ面談の場で実質的に決定されておりその後は具体的な手続きになるケースもありますし、上場企業で部署の決裁⇨プレ投資委員会⇨投資委員会⇨取締役会などのように社内で何度も決議をとる必要のあるケースもあります。
売り手の事前準備が良い
M&Aのプロセスが始まると、買い手企業から大量の資料依頼や質問に追われることになります。
これらの業務は通常の経営では経験することがなく、M&Aは基本的に社内に情報開示せずに進めることになるので社長自ら(もしくは限られた社内メンバーのみで)対応することになります。
事前の準備が不十分なままこれに臨むと非常に多くの工数がかかってしまうため、事前の準備がM&A期間全体のスケジュールを短くする上で非常に重要です。
売り手の価格目線が適切
M&Aにおいてはまず売り手側が売却価格の目安を提示した上で、買いたい会社がいるか探す、デューデリを行い価格交渉をするという流れになるため、売り手の価格目線が高すぎると誰からも声がかからないといった状況や交渉が難航するといった事態に陥ります。
事前に買い手の目線や投資回収といった感覚を踏まえて価格設定ができるとM&Aは非常にスムーズに進みます。
会社売却までの期間が長引くケース
- 買い手が複数の候補から買収先を検討している
- 買い手が上場企業などで意思決定のステップが複雑である
- 売り手の事前準備が悪く、依頼された資料や質問への対応に時間を要する
- 売り手の提示する売却価格水準が不適切である
2-4については上述の通りですので1について解説します。
買い手が複数社検討している
買い手企業は通常M&Aを日常的に検討している会社が多く、デューデリも複数社行った上で本当に良い会社があれば買うという会社も多いです。そのため、買収検討はするけど今すぐ買収はしないケースや複数社と交渉して条件が折り合うまで調整する会社もあります。
こういったケースではM&Aの期間は長くなります。
いつから会社売却、事業承継の準備を始めるべきか?
これは全ての会社が今日から始めるべきと世の中の全経営者にお伝えしたいです。
人間には寿命がありオーナーにはいずれ代表を退くタイミングが必ずやってくるからです。どのように会社をEXITするか?というのは映画のクライマックスのように一番重要なシーンです。この着地を考慮しないまま経営を続けると出口の選択肢がどんどん無くなったり、出口が狭まったりしていきます。
多くの経営者が会社の売却を検討するのは「この業界も景気が悪くなってきた」「自分の歳だから気力がなくなってきた」というタイミングになってからです。ここから準備を始めるとどうしても打ち手が限られてしまいます。
会社の業績が好調なうちからM&Aについて検討をしておくことで、経営上の課題にぶつかったときも「うちは売ろうと思えばこれだけの値段で売れる」という安心感を持って経営ができますし、いざ後進に譲ろう・外部に売却しようという時にもスムーズかつ適切なバリュエーションでの引き継ぐことができます。
今日明日売却をしない場合でも、いずれ必ず退くタイミングがやってくるということを認識した上で経営をしていくことが大きな差を産みます。抜かなくても刀を腰に差していることが大事です。
以下ケースごとに見ていきましょう。
後継者がいるケース
うちの会社は後継者がしっかり決まっているから大丈夫、という会社でたとえそれが御子息であっても相続という問題が発生し、その際に株式を移転する必要があるためこれも広義のM&Aに該当します。その際に承継した経営者がスムーズに経営を軌道にのせるため、会社をより発展させるためにもファイナンスや会社のバリュエーションも考慮した準備を行っている会社とそうでない会社では大きな差が生まれてしまいます。
創業間もないケース
創業から間も無く、これから会社を発展させていくぞ!というフェーズの会社であっても例外ではありません。創業期は投資、融資などでの資金調達などを行うケースが多いと思いますが、特に株式発行での資金調達は不可逆であり、M&Aを出口として見ていない資本政策を立ててしまうといざ10年後20年後に売却しようとした際に大きな足枷となってしまうケースがあります。
特に注意が必要なのがIPOを目指して創業期から高いバリュエーションで第三者割当を行なっている会社がIPOをあきらめてM&Aに舵を切るケースです。
上場企業なので安心?
上場企業においてもM&Aは1つのオプションとして考慮しておくべきです。日本の上場企業はPBR1倍を下回る会社も多く、会社の株価が海外と比べると相対的に低い会社が多い状況です。
これは海外のファンドなどからしたら「お買い得」な会社が多いということです。そのため不本意な海外ファンドに敵対的買収をされてしまうという例が毎年起こっています。
そういった買収の対象にならなくとも、創業経営者が多くの株式比率を持っている場合にこれをどう処分するか?といった問題や株価が低く新株発行などの資金調達の選択肢が無くなり身動きがとれず低空飛行をせざるを得ない状態など、上場しているからといってM&Aという選択肢を切り離して経営をするリスクは非常に高いです。
売却を検討しているケース
売却が少しでも頭によぎったらすぐ準備をはじめましょう。
対外的に相談するのが難しくとも、自社の財務情報をしっかり整理するだけでも企業価値を適切に評価する際やデューデリジェンスの準備に非常に役立ちます。
具体的に今日から始められる準備をいくつか例示します。
- どんな会社にうちの会社を引き継いでほしいのか?
例えば同業の会社であれば運営ノウハウとしての心配は不要ですが、他業種に買ってもらった方がシナジーを生む可能性がある。など、誰に引き継いでもらってどんな会社にしてほしいのか戦略を立てていきましょう。 - 優先すべきは従業員の待遇か?売却価格か?
M&Aにおいて全てが満点というディールはありません。何かしら優先順位をつけて決断する事項が必ず出てきます。その際の優先順位や項目、買い手企業にお願いしたいことなどをリストアップしてみましょう。 - 会社を売却してあなたは何をしたいのか?
売却したからといって必ずしもあなたが退任する必要はありませんが、そのまま会社に残ってやりたい業務があるのか?会社を去るなら、その先なにをやりたいのか?
これがM&Aの意思決定上も一番重要なポイントになりますので、是非じっくり楽しみながらプランニングしてみてください。